組織改革にタレントマネジメントを活かすヒント

変化の激しいVUCAと言われる時代において、企業もその変化に柔軟に対応できる組織づくりは必要不可欠です。組織改革に取り組むことで業務改善や社員のモチベーションアップといったメリットを享受できる一方、組織改革に取り組まない企業では、変化に乗り遅れ、事業の縮小といった結果をもたらすことも十分考えられます。

今回は、組織改革を行うにあたって、知っておくべき基本的な知識やプロセスを解説し、その中でタレントマネジメントがどう連動するのか、実践的な、使えるアイデアやヒントをご紹介いたします。

組織改革とは?~タレントマネジメントはハード・ソフト面で活用できる~

組織改革とは、組織の体制や文化を抜本的に変えることです。
具体的には、社員の意識や社風、文化などの「ソフト面」と業務システムや人事制度などの「ハード面」の両方を改革することを指します。企業の成長や業績改善をすることを目的に行われます。

これまでのブログで紹介したタレントマネジメントとは業務システム、人事諸制度に関わるハード面である一方、社員のモチベーションや会社の方針(ミッション、ビジョン)へのエンゲージメント向上といったソフト面にも使える人事戦略のひとつです。

年功序列型の雇用制度が長らく採用されてきた日本では、年齢と共に役職が上がるなど、能力よりも勤続年数、年齢によって賃金が決まることが若手のモチベーションダウンの原因となり、退職率が上がってしまうといった悪循環を生み出す社内制度が残っている企業も少なくありません。

企業として持続的に成長できる組織でありたいと願う経営者がほとんどだと思います。組織を取り巻く外部環境、内部環境とも常に変化し、その要因も多岐に渡ります。それらに対応しないと、事業はもちろんのこと、組織自体が存続できない恐れも出てきます。

では、組織改革を行うタイミングとはどのようなときでしょうか。
・外部環境の変化
・業績の悪化
・組織内の変化や不安要素

などが挙げられます。

新型コロナウィルスの流行では外部環境の変化のみならず、働き方や生活のあり方も大きく変化しました。また、消費者行動の変化から業績の悪化も重なり、これまでのやり方、勝ちパターンが通用しなくなっています。新規事業の立ち上げる中で、新しい組織の編成がなされ、社内の情報共有や連携で課題を感じている、組織の拡大により会社の方向性が社員に伝わっていないなど組織内の変化や不安要素を感じ取ったときも組織改革のタイミングと言えるでしょう。

組織改革では、改善すべき箇所が分かりやすく、着手後、比較的早期に効果が出やすいハード面と、社員の意識改革を促す、社風を変えていくといったじっくり時間をかけて着手し、効果は徐々に現れるソフト面の両側面を考慮し、進めていくことが重要なポイントです。

組織改革のプロセス~タレントマネジメントとの連動~

組織改革を始めるときには、改革の目的を明確にし、推進するメンバーで共有することが必須です。また、着実に改革の歩みを進め、成果を出すためにも、事前準備には時間をかけ、解決を図る手段、手順を綿密に考えることが必要です。

組織改革を進めるプロセスとしては、以下の通りです。

①組織改革を推進する専任チームの編成
経営層や人事だけではなく、現場の社員をリードする人をチームに加え、専任チームを作りましょう。改革を推進する力を発揮してもらうためにも、現業との兼任といった中途半端な立場ではなく、専任してもらうことが求められます。

現状を変えようとすると、必ずと言っていいほど変化を嫌う社員が現れます。変化を嫌うのは「現状維持バイアス」という心理から起こるリスクを避けて身を守る人間の本能です。そういった反応をする社員に対し、放置や変化の強要を行ったとしても、不満が募るばかりで改革を進めることができません。

そのような社員が主体的に改革の動きに参加してもらうためにも、専任チームに現場で信頼されている、評判の社員を入れ、向き合う姿勢を見せることは大切です。

②現状分析と課題の洗い出し
現状を分析するフレームワークとして代表的なものが「マッキンゼーの7S」です。7Sは企業を構成する上で重要となる7つの要素の頭文字を取ったもので、7つの要素は、ハードのSとソフトのSの2つに分類されます。

◆ハードのS:計画や施設、設備など、可視化できるものが該当します。いずれも経営陣の意向でいつでも変えられるものが多く、比較的すぐに効果が見えるため、着手しやすいと言われる

・Strategy(戦略):事業の方向性や経営戦略
・Structure(組織構造):組織形態や構造、指揮命令系統
・System(システム):組織・人事の管理システム、企業の制度や規定、規則

◆ソフトのS:人や行動様式、価値観にあたる部分でいずれも実体のないものなので、改革を実施しても効果が出るまで時間がかかる。ソフトのSを変更する時には、納得感のある「変更する目的と理由」が必要

 ・Shared Value(価値観):経営理念や会社方針
 ・Skill(スキル):組織が持つ強みとしての能力(営業力、開発力など)
 ・Staff(人材):人材マネジメント(人事制度や人材開発など)、社員が持つ能力
 ・Style(スタイル):組織文化、組織風土、経営スタイル(トップダウン型、ボトムアップ型など)

ハードのSは着手のしやすさと効果の出やすさから取り組みやすいですが、表面的な改革にとどまってしまいます。ソフトのSと併せて進めなければいけません。

一方、ソフトのSは、人間の内面にあたる部分に対し、変化を求めるため容易ではありません。いかに社員に主体的、自発的に変化を遂げてもらうか、が重要であり、促し続ける長期的な計画が求められます。

課題を洗い出しますが、これらはビジョンを立てるために必要なのはもちろん、社員や経営陣に納得してもらうための説明材料としても役立ちます。現場の社員にアンケートを実施するのもいいでしょう。

③ビジョン、計画の策定
課題を洗い出せたら、組織改革を実現させるためのビジョンと計画を立てます。企業がどうあるべきなのか、実現させることにより従業員にどのような変化をもたらすのかを現実的な視点で細かく策定します。長期的な成果、短期的な成果に対し実績を確認できるように定量的、定性的な目標を入れ込むことをお勧めします。

またここで策定した戦略は組織全体にも共有すべき内容のため、社員にとってもわかりやすく、納得が生まれるような内容にすることが望ましいです。

④組織全体への周知
決定したビジョンを社内全員に周知します。社内の掲示板やチャットといったツールももちろん利用しますが、直接、語り合う説明会の場を設ける、匿名で質問できる質問箱を用意するなど、実行前にできる限り社員の不信感を払拭させることが大切です。

これらを丁寧に確実に行うことで、組織全体で組織改革に対する士気を高め、社内一丸となって組織改革をする体制を整えていきます。

⑤計画の実行と短期的なフェーズでの成果
策定したビジョン、計画に基づき、専任チームを中心に実行します。大きな成果も重要ですが、短期で、小さな成果を出し、チームとして、組織として成功体験を積み重ねていきます。

専任チームのモチベーション維持はもちろんのこと、経営層や社員に対し、成果を共有、アピールする機会を設け、組織改革が進められているというアナウンスを常に意識します。

⑥企業文化としての定着
ひとつひとつの計画を実行し成功させた後は、新しい行動様式として社内で定着させることが重要です。現場の運用フローや仕組みに反映させて、観察を行い、場合によってはさらなる改善を行い、文化として根付かせていきましょう。

タレントマネジメントをすでに導入している企業の場合、①のチーム編成時に、適した社員をピックアップする、②ではソフトのS、特にSkill、Staffの現状分析にタレントマネジメントシステムで蓄積したデータの分析結果が役立ちます。

タレントマネジメント未導入の企業の場合、②のハードのS、Systemの現状分析において、現在の人事システムがうまく機能しているか、していなければ改革の一つの手段としてタレントマネジメント導入を検討してみてはいかがでしょうか。

組織改革にタレントマネジメントを活かすヒント

前章では組織改革のプロセスについて解説しましたが、実際に組織改革を進めるにあたって、組織改革を進める着眼点やアイデアなど、参考になる資料をご紹介します。

内閣官房内成長戦略会議、企業組織の変革に関する研究会が2021年8月21日に公表した報告書『プライム市場時代の 新しい企業組織の創出に向けて~生え抜き主義からダイバーシティ登用主義への変革~』です。この研究会には、有識者や国内トップ経営陣らが参加しており、企業変革の問題点や現状を挙げるだけではなく、ソリューションの提案もなされており、国内外のデータを元に丁寧に解説されているのが特徴です。

以下に掲載する企業が取り組むべきアクションリストでは、人材の立場ごとの変革内容が記載されていることも非常に興味深い内容となっており、タレントマネジメントを組織改革に活かす際に必須と思われるアクションリストもありました。報告書の中においても、ソフトのSに対する課題認識が提示されているため、参考となるでしょう。


出典:内閣官房 成長戦略会議 企業組織の変革に関する研究会 報告書(2021年8月21日公表)に
筆者加筆(赤線部分は特にタレントマネジメントの活用領域)

まとめ

いかがでしたか?

組織改革のタイミングは、外部環境の変化、業績の悪化、組織内部の変化や不安要素を感じたときです。タイムリーに対応することで、企業の持続的な成長が可能となります。また、その組織改革においては、明確なビジョン、ゴールが浸透している中で社員ひとりひとりが主体的な参画意識を持って、納得感を感じている状態にしておくことが成功の必須条件です。

タレントマネジメントは組織改革推進の際に強力な支援ツールともなり得ます。まだタレントマネジメントを導入していない場合には、組織改革のひとつの手段として導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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