タレントマネジメントを活用する育成担当の育て方

突然ですが、皆さんの会社では育成担当が誰に何を教え、どのようなサポートを行うかをきちんと伝えているでしょうか。せっかくタレントマネジメントを導入したにもかかわらず、うまく活用できていない、運用面で苦労していると感じている人事担当の方もいらっしゃると思います。

もしかすると、タレントマネジメントの活用方法や仕事の教え方などを現場の育成担当に任せっきりになっているのではないでしょうか。育成担当が何となくタレントマネジメントの情報を見て、何となく仕事を教えている、ということになっているのかもしれません。

そもそも育成担当という仕事を与えている以上、組織の中でひとつの役割を担っていますが、タレントマネジメント導入時の「従業員情報の見える化」でその役割を定義しないままになっていることが多く見受けられます。

今回は、タレントマネジメントの活用を加速させるキーマンである育成担当と彼らを育てるポイント、について解説します。

タレントマネジメントで育成担当の職務が定義されていますか?

新たな人事戦略としてタレントマネジメント導入を決定した企業が、次に直面する課題が「運用がうまく進まない」ということです。導入時に経営層、マネージャー層、社員に説明会も丁寧に行い、理解を深めてもらう機会も作り、タレントマネジメントを中心とした人事施策も準備していても、なかなか浸透しない、育成に繋がっていないと感じる人事担当の方が、弊社にご相談くださることが増えてきました。

導入時に見落としがあるとすれば、育成担当に向けた説明会や相談会が抜けていたことです。
育成担当向けの説明会を設定しなかった大きな要因は、育成担当という役割を見落とし、その職務を定義しなかったから、です。

現業に直接かかわる職種や役割、間接部門と言われる職種や役割は漏れなく洗い出し、その業務を見える化することができていますが、どの現場でも必ずある人の育成という役割を定義していないことが起きるのはなぜでしょうか。

恐らく、育成という役割、職務が現業とは違う、補助的なものとして考えられているため、本来でれば現業の役割と兼務として育成の役割を担うはずが、「そろそろ育成も経験しておこうか」といった雰囲気の中で、あいまいに現業に包括されてしまっているからです。
そして、そのあいまいな包括が、何をどう教えるか、サポートするかは育成を担当する個人の力量に依存し、トレーニー(教そわる側)の関係性構築も周りからの支援のないまま任せられてしまい、育成担当の悩みを生み出しています。

育成担当の役割、その職務を定義し、その定義を持って、育成担当の社員に対し、教えることが自身の仕事の評価に繋がることを伝えておく必要があります。

タレントマネジメントを活用する育成担当の育て方

職務定義で何を教えるかは準備できているにもかかわらず、それを使って育成を担当する社員がその使い方を知らなければ、職務定義の意味は半減してしまいます。また、タレントマネジメントシステムを入れ、育成体系や目標設定といった育成施策を準備していても、システムでどんな情報が得られ、どの情報を育成プロセスに組み込んでいくかを知らなければ、情報の意味も半減してしまいます。

つまり、タレントマネジメントを導入した育成体系の構築時に、育成担当者をサポートする仕組みを考えておくことが重要です。
育成担当を育成するポイントは3つあります。

  1. 教えるスキルをレベルアップする

コーチングやティーチングの手法、1 on 1など面談の進め方といった教え方やトレーニーをサポートするスキルを磨く研修はもちろんのこと、育成担当者が悩みや課題を解決する機会を定期的に設け、組織の中でトレーニーを育てる意味やその重要性を理解し、実践に繋げられるように組織のマネージャーと共有できる場をあらかじめ用意しておきましょう。育成担当者同士が課題や悩みを吐き出し、お互いの苦労話や成功体験を安心して話せる育成担当者の会といった場を設けることでより育成担当の心理的負担を軽減できるかもしれません。

  1. 職務定義を理解し、トレーニーに教える仕事の手順を組み立てる場を作る

自身の仕事、現業における役割、育成の役割についての職務定義を理解し、どの職務を教えるのか、OJTで教えるもの、Off-JTでトレーニー自身が学ぶものを考えてもらいます。

仕事をする現場や組織によって、仕事を教える手順、トレーニーがどのレベルまで出来るようにするか(周りのサポートを受けて職務を遂行できるレベル、一人で考え、納期を守り、職務を遂行できるレベル等)という基準も違い、またトレーニーのスキルにも個人差があるため、トレーニーの立場に立ち、まずは組み立てます。

組み立てたものは、上司にレビューをしてもらい、修正点やチームとしての要望を加味して、トレーニーごとの育成プランを構築する場をトレーニーが配属される前に設けておきます。

  1. タレントマネジメントで得られる情報と使う場面を学ぶ場を作る

仕組みとしてのタレントマネジメントを導入する際に、システムを入れる場合は多くあります。タレントマネジメントシステムで収集、蓄積している情報にはどのようなものがあり、どこを確認すれば、必要な情報にアクセスできるのかを知ってもらいます。

システムの説明というよりは、トレーニーの事前情報(学歴、スキルや資格の有無、研修の履歴など)や本人のキャリア志向(専門性を高めたい、マネージャーになりたいなど)、得られる情報と構造を理解し、その情報を活かせるのは育成の仕組みにおいてどの場面か、具体的に提示しながら、説明していくことが大切です。

育成担当の気にかけ力をタレントマネジメントにプラスする

前章では、人事側が育成担当に対しての取り組みをご紹介しましたが、ここでは、育成を担当する側がタレントマネジメントをうまく利用し、育成スキルをアップするためのポイントを整理します。

前章の2、3で教える手順や得られる情報、活用する場面を学び、準備しました。それと並行しながら、以下のステップで教える仕事を進めていきます。

ステップ1:コミュニケーションの土台を作る
お互いの価値観や仕事を通じてどう成長したいか、ライフプランは?といった話題から信頼関係を築くステップを踏みます。

ステップ2:トレーニーの成長を意図した仕事を計画する(前章の2)

ステップ3:当事者意識を醸成する
コミュニケーション量を含めトレーニーとの接点が多く、一番時間をかけるステップです。トレーニーの成長のために取り組んでもらいたいと思うことを、相手にも「やってみたい」という気持ちにさせることが大切です。そのためには、トレーニー自身が目標を立て、達成のための計画を考えることを重視します。

ステップ2で計画した仕事をトレーニーに教えていくわけですが、教える前にその仕事が含まれる全体像や仕事のつながりを伝え、この段階でこの仕事を担当する意味もすり合わせておきます。

ステップ4:コミュニケーションを切らさず、成功を支援する
仕事をする中で、小さな成功体験を積み重ねてもらえることが理想ですが、失敗体験を避けることはできません。自身の経験からあらかじめこのような失敗をするかも、と予測されることを考えておけば、事前に失敗を回避する、または失敗してもリカバリーする方法を教えることができます。トレーニーにどんなサポートができるのか、伝えておくと相手の不安も軽減されるでしょう。

ステップ5:成長実感を付与する
努力してきたことに対して、トレーニーが成長実感、達成感を感じることができるコミュニケーションをとることが大切です。

大きな成果や大きな向上だけに目を向けると「認める」という行動がとれなくなります。小さな成果、小さな向上に目を向けることに注力します。時に認めないことでかえってそれをバネに成長できる人材もいますが、すべての人にあてはまる方法論ではありません。また、自分がそのタイプであっても、全員がそのタイプではないことを育成する際には頭に入れておくことが大切です。

叱ることも必要ですが、「認める」ことが人の成長にとってはより重要な要因であり、トレーニーには成長実感を多く付与しましょう。

仕事を教える5つのステップでは、「気にかけ力」を働かせることで育成担当自身が受け取る情報の質が変わります。ちょっとした表情や話す内容、仕事をする中で手が止まっているといった行動に目を向け、トレーニーがつまづきやすいところ、得意なことや苦手なことなど、本人からの重要な情報を気にかけることでより一層、トレーニーの成長、成功に育成担当が深く関わることができます。

まとめ

育成施策を社員にとっての有益なものにするためには、キーマンである育成担当の成長はもちろん、彼らを一番の協力者として「人を育てる人を、育てる」ことが重要です。そのためにもまずは育成担当の役割、職務を明確に定義することから始めてみましょう。

タレントマネジメントの中で育成に関する施策は運用のキーになるものです。その育成を担う社員はいわば運用のキーマンです。3つのポイントを参考に、タレントマネジメント運用のキーとなる育成する力をレベルアップさせてください。

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