人財育成の仕組みづくり

気にかけ力が人材育成に必要なワケ

人材育成の分野に長年携わっていると、経営者、現場のマネージャーや人事担当者の方と多くお会いする機会があります。会社ごとに社風、文化は違いますが、ちょっとした会話の中で、経営者やマネージャー、部下のことを話題に出し、その人の良さや強みを話してくれる会社は業績も良く、人事に関する課題解決に対して前向きに、目的をもって取り組むことが共通の特徴だと言えます。

会社が大きくなれば、人の数も多くなり、その個性もそれぞれです。ニューノーマル時代の働き方にシフトし、働く場所や時間に変化が生じる中、さらに企業を強くするためには、それぞれの個性を活かす経営、人材育成が今まで以上に求められる時代になってきます。

今回は、人材を育成するひとつの視点、スキルとして「気にかけ力」を解説します。

人材育成とは相手を気にかけること

人材育成に関して、部下を育てるマネージャーやリーダーをどのように育てるかという課題をよく相談をお受けすることがあります。相談された相手、経営層ならば自身の部下であるマネージャー、マネージャーや人事担当者ならば自身のチームメンバーにどう接しているか、どう育てているかをヒアリングするようにしています。

ヒアリングしていく中で、人材育成に関する捉え方に3つのパターンがあります。
①組織力アップの軸として人材育成を捉えており、育成手段を自律的に考えている人
②人材育成はOJTやOff-JTで行うものとして捉え、人事施策任せの人
③人は育てるのではなく育つものと捉えている人

①のパターンの人に普段どのような接し方、育成で実践していることを伺うと、「部下をよく見て、現在の仕事の状況や経験を考え、必要なサポートを行っている」ということでした。

必要なサポートは人によって違うので、育成する側も業務に関するスキルや知識はもちろんのこと、どうすれば部下がモチベーションを維持し、目標達成や業務を遂行できるサポートの手段をいくつも持つようにしており、そのひとつとして会社が準備した教育の機会を活用していることも分かりました。

「部下をよく見て」とはどういうことなのでしょうか。
以前、とある会社の社長がよく口にする言葉がありました、「人を育てるには、目配り、気配り、心配りが重要」。目配り、気配りという言葉は聞いたことがありましたが、心配りとは?と思い、心配りとは何ですかと尋ねたところ、「人を育てるのには時間も手もかかる、育つかも分からないが、相手を見て、相手を尊重し、相手の立場に立って気持ちに寄り添って、助けが必要なときに手を差し伸べること」と答えてくれました。そのお話は今でも人材育成に関わる身にとっては貴重な教えとして根付いています。

また弊社ファインドゲートの代表は「気にかけ力」が人材育成に重要だとよく話しています。この「気にかけ力」は目配り、気配り、心配りと同じ意味を持つ言葉だと感じています。そして、「気にかけ力」こそ、「部下をよく見る」ときに一番必要となる力です。

オンラインで仕事を進めることが多くなった今、画面をオフにして部下の表情が見えなくなり、今の状況がわかりづらくなったという話もありますが、会話のトーン、話すスピードや部下の回答内容、提出する成果物の質など気にかけ、気づく機会はたくさんあるはずです。

人を育てる立場にあるマネージャーこそ、その時々の状況や変化に対応しながら、部下を気にかける力もブラッシュアップしていく必要があります。まさしく、教えることは学ぶことを実践することが新しい世代を育てる責務であると思います。

気にかけ力で多様な人材を育成する

ここ数年の新入社員や若手の特徴として、「自分を認めてくれる環境で、無理なく、無駄なく成長したい」が挙げられ、デジタルネイティブやZ世代とも言われます。また2025年には65歳まで雇用確保が義務となり、健康寿命と相まって、長く元気に活躍するシニア層が増加し、部下が年上というのが当たり前になってきます。

世代はもちろんのこと、雇用のグローバル化、LGBTQといった国籍や性別にとらわれず、多様な人を社会、企業が受け容れ、活躍する場が求められています。そうなると、従来の日本的な雇用習慣や人事施策では対応できないことも増えてきます。
価値観の違いを認め、お互いを尊重し、良さに気づくことが企業の成長、人材育成において重要なカギを握ります。

発達心理学では、人の成長は「遺伝」と「環境」のふたつの要因が影響するといわれています。そこから発展して、遺伝と環境の足し算で決まる、遺伝と環境の掛け算で決まるという説もありますが、企業における人材育成では、「環境」の要因がより重要になります。

成長を実感でき、その成長を認めてくれる環境にあるか、は、採用、特に新卒採用では、会社を選択する際に、重視される傾向にあり、成長環境に対する期待が満たされなければ、入社後3年未満で離職する大きな原因のひとつになってきています。

組織の中で人が成長するためには3つの点が大切です。
・良い経験にめぐり合うこと
・経験から学ぶ力を持っていること
・良い経験を積む機会が多く、学ぶ力を養ってくれる組織に所属していること

特に3つ目の組織、環境の力は本人だけの努力ではどうにもできず、会社全体、関わる上司や先輩との関係性の中で構築されます。

以前であれば、「仕事を覚えるには、上司や先輩の背中を見て、盗め」という考え方もありましたが、これから多様な人材に活躍してもらうためには、その考え方だけでは人は成長できません。古来からの武道や書道といった道を究める分野においても、教える側の姿勢として、従来の見て、盗み、学ぶことから、論理的に技や方法論を教え、納得し、体得してもらう方法をとっていると聞きます。

人の多様性を認め、活躍する場を提供するには、まずその個性を見極めることです。そのためには、部下ひとりひとりをよく観察し、価値観や願望、目標を知り、そこからその人の考え方、受け止め方を理解していくプロセスが必要です。つまり、本人が達成した成果に紐づく行動やその行動を生み出す判断の基準となるものを観察し、考えることが「気にかけ力」です。

気にかけ力は、単に体調やモチベーションの変化を気にすることだけではなく、本人の行動、成長の軸となる部分にまで視点を向けることです。かなり時間がかかることですが、教える側にとっては育成に必要な準備だと思えば、時間をかける価値はあります。気にかけて、推察することはできますが、本当にそうなのか、時には直接話すことでそのギャップを修正しなければなりません。

難しいと思うかもしれませんが、最初は先入観を捨て、部下ひとりひとりの言動を見て、その人の得意なところ、良さを見つけることから始めてみると、意外な発見や今までの印象と違うことに気づくことができます。まずはそこから始めてみる、教える側とっては絶好の学ぶ機会になるでしょう。

気にかけ力が人材育成を変える

企業が人を採用し、組織の力で業績を上げ、継続していくには、人材育成は企業が存続する限り、企業の成長に必須の要因です。近年では、人材をコストと捉える人的資源の考え方から積極的に人に投資し、企業の成長に貢献する人材にする人的資産の考え方へ、そして人を無形資産と捉え、人的資本の可視化が求められる時代に切り替わっています。

ある上場企業では、株主総会において、組織の人材価値を可視化し、今後の経営戦略に基づき、人材戦略の説明を行ったところ、投資家や株主から好意的に受け止められ、その後、株価が上がり、社員への報酬へ還元できるようになったという事例もあります。

確かに今後の業績予測で外部要因、内部要因の説明はありますが、今まで働く人の力や価値がその予測にどう影響を及ぼすのか、についてはあまり語られてきませんでした。これから多くの企業で人の価値について可視化され、説明責任を果たすことが企業の成長につながることを実感することでしょう。

人材育成において、従来型のOJTやOff-JTで一方的に教えているだけでは、人の価値の可視化には貢献できません。人の育成には時間とお金がかかるのに効果が見られないと言われますが、効果測定する指標を設定していないために出していないだけです。

人は価値や効果がないと感じるものにはお金を出し、投資することに躊躇してしまいます。性能の良い製品を作り売るというモデルから、顧客が感じる製品やサービスの魅力が品質とするモデルに市場は変化しています。

人材育成も同じく、その人の価値を高め、周りとの協業、協創で仕事を通じて経験を積むことで成長できる環境を作り、成長した力を発揮してもらうことが企業の価値になっていくことでしょう。

ひとりひとりに価値を高めてもらうこと=成長と定義し直すと、部下を育成する視点が変わってきます。そのためにも「気にかけ力」で相手を見て、相手を尊重し、相手の立場に立って気持ちに寄り添って、助けが必要なときに手を差し伸べることができるようにマネージャーなど教える立場の側も学び、成長することが求められます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今までも部下をよく見て、成長につながるような仕事や目標を与え、適切にサポートを行っているマネージャーもたくさんいらっしゃいます。その方々が率いるチームは業績も高く、自ら学び、成長する力を持ったメンバーに支えられています。中には、成長よりも今ある仕事を淡々とやりたいというメンバーもいるかもしれません。その場合でも、彼らが安心して、働き、チームに貢献したという実感をもってもらう努力は必要です。

今回ご紹介した「気にかけ力」は、今後さらに教える立場の人にとって、メンバーに成長してもらい、会社に貢献できる価値を見出すカギとなる力です。良い経験を積む機会が多く、学ぶ力を養ってくれる組織にしていくために、気にかけ力をアップさせていきましょう。

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