人財育成の仕組みづくり

人材育成におけるヒューマンスキルの考え方とは?

「ヒューマンスキル」はしばしば「人間力」など言い換えられるように様々な定義があり、また企業における活用方法は千差万別です。「ヒューマンスキル」は仕事をする上で必須のスキルと言われますが、一見分かりやすい言葉で表現され、人それぞれの価値観とも関係するため、共通の認識が持ちづらいものです。本記事では、人材育成に関する施策を検討する上で、重要なポイントとなる「ヒューマンスキル」についてどのように考えればよいか、について解説します。 

人材育成における重要な要素「ヒューマンスキル」とは?

「ヒューマンスキル」とは、1955年にハーバード大学の経営学者であったロバート・カッツ氏がマネージャーに必要な3つのビジネススキル、「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」を提唱したことから始まったと言われています。カッツモデルと呼ばれるこの理論では、「ヒューマンスキル」は「他者と良好な関係を築き、維持をしながら仕事をうまく進めていく能力」と定義されています。

ヒューマンスキルは、7つの能力に分けられ、以下の表の通りです。

能力説明
コミュニケーション自分の意志や考えを筋道立てて伝えることができる能力
リーダーシップメンバーのモチベーションを高めながら目標を達成できる能力
ネゴシエーション双方が納得、合意できる状態にできる能力
プレゼンテーション情報を簡潔にまとめ、自分の意思を的確に相手に伝えることができる能力
コーチング相手の気づきや自発的な行動を促し、目標達成に向けて伴走できる能力
ヒアリング相手の意図を正しく理解できる能力
向上心自ら目標を立て、その目標を達成するためにスキルや知識などを磨き続ける努力ができる能力


これら7つの能力はマネージャー層に限らず、働く人すべてに必須のスキルとして、皆さんも納得できるでしょう。

このほかに、カッツモデルと近しいものとして、日本では2006年に経済産業省が提唱した「社会人基礎力」があります。こちらは、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から成り立ち、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として構成されています。また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2015年6月に正式版として公開した「i コンピテンシー ディクショナリ(iCD
)」のスキルディクショナリでは、「ITヒューマンスキル」として、「創造力」、「実行・実践力」、「コミュニケーション力」の3つの能力(12のスキル項目)を定義しています。

これとは別に「コンピテンシー」という言葉もよく聞きますが、「スキル」とは明確な違いがあります。1980年代のアメリカで業績に関係する社員の特性を調査したことから生まれたのがコンピテンシー(理論)です。その調査の中で、一般的にイメージされていた学歴と業績の相関は弱く、業績が高い社員には共通した「行動パターン」があり、それにつながる「性格」、「価値観」、「考え方」があることがわかりました。ざっくり言うと、「スキル」や「知識」は「何かを知っていること(保有している)」であり、「コンピテンシー」は、「スキル」や「知識」を持っていることを前提とし、それらをどう活用しようとするか、活用するかという「行動・思考」を指します。「スキル」や「知識」は「~できる」と表現しますが、「コンピテンシー」は「~している」と具体的な行動で記述するとわかりやすいかもしれません。

「ヒューマンスキル」を人材育成の要件として定義する

人材育成担当者として、今まで述べた「スキル」と「コンピテンシー」の違いを理解、整理した上で、人事評価や育成施策を企画立案、場合によっては今ある制度を改善する、というミッションに取り組む必要があります。多くの企業では職務定義書や評価基準を策定し、人事諸施策と紐づけています。しかし、その職務定義書や評価基準をよく見てみると、「ヒューマンスキル」と「コンピテンシー」が混在しています。そのために育成のポイントがぼやけてしまい、育成施策がうまく組み立てられないといったことが起こります。

いきなり職務定義書や評価基準を変更するには大きな労力がかかり、人事評価とも関連してくるため、最初に手を付けるにはハードルが高すぎます。そこで人材育成の面から年次や階層別に求めるヒューマンスキル、コンピテンシーを整理し、人材育成の要件を定義することをおすすめします。自社内で明確に定義された職務定義書や評価基準がない場合は、先に述べたカッツモデルのヒューマンスキル7つの能力や社会人基礎力、iCDのITヒューマンスキルなどを参照しながら策定するカスタマイズ型があります。一から自社の理念、ミッションやビジョンからこの人をお手本にしたいという社員を選び、その人が保有するスキル、行動特性や思考などをヒアリングする抽出型があります。また、その両方を取り入れたハイブリット型があります。

本来は、ミッションやビジョンから人材像が定義され、その他の人事諸施策へ展開されるトップダウン方式が望ましいと言われています。人材育成の要件定義から現在の定義書や基準の矛盾、整理できていない箇所が明確になり、必要に応じて改定するというボトムアップ方式で人事諸施策を見直すことができると思います。

人材育成担当者のみでこれらのタスクを完了させようとすると、労力面の大変さだけではなく、本当に現場が必要としている人材、育成してほしいポイントを外してしまう可能性があります。現場のマネージャーやリーダーを巻き込み、最適化していくことが成果を発揮する重要なファクターです。

人材育成担当者に求められる「ヒューマンスキル」とは?

経営層、現場のマネージャーやリーダー、社員の声を育成施策に活かしていくために、人材育成担当者が求められる「ヒューマンスキル」とはどのようなものがあるでしょうか。

カッツモデルでは分かれていますが、コミュニケーションとヒアリングスキル、話す力と聴く力はセットで必須スキルです。これに加えて、カッツモデルでのプレゼンテーションスキル、つまり調査し、必要な情報を探すことができる読む力、そして相手にわかりやすく伝えることができる書く力も重要です。話す・聴く・読む・書くの4つの力が自身のインプット、アウトプットの精度を高め、相手に納得や共感、合意を生み出すことができます。

また筆者の今までの経験において、コーチングスキルと似ているのですが、いかにステークホルダーである相手に対し、気持ちや行動の変容を自発的に促す力が重要です。ここでは気にかけ力と言いますが、これを獲得できるかどうかが大きなカギになると実感しています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。「ヒューマンスキル」の定義や能力の要素は色々と世の中にありますが、総じて「他者と関係を築きながら、仕事をうまく進めていく」ためのスキルと言えるのではないでしょうか。カッツモデルやコンピテンシー理論がアメリカで生まれてからずいぶんと時が経ち、企業活動もスピード、成果の質が変わってきました。

これからは、働き方も含め、より多様な価値観を認め合い、相互作用しながら仕事を進めて、新しい価値やサービスを創造する、そのことが働く一人ひとりのやりがいにも繋がる、個を活かす組織づくりが成長の成功要因となってきています。併せて、企業で求められるヒューマンスキルの定義も変化してくるはずです。ヒューマンスキルは普遍的であるようで、実は一番時代の変化に対応しなくてはならないスキルかもしれません。

ファインドゲートでは社内の人材育成強化を検討する際に、考慮すべきポイントをまとめた入門資料「人材育成の目的の大切さに気づくためのガイドブック」~人材育成担当の気づきのヒントがここにある~ をご用意しました。本資料は、人材育成を強化したい方には必見の資料です。ぜひダウンロードいただき、ご覧ください。

お役立ち資料

関連記事

TOP