タレントマネジメントとジョブ型雇用

タレントマネジメント」と同様に、人事制度に関するトレンドとして「ジョブ型雇用」が挙げられます。新型コロナ感染が拡大し、在宅やワーケーションといったリモートワークが定着してきたことも背景のひとつとなり、雇用のあり方、仕事の成果について考え直すタイミングでジョブ型雇用制度の導入に向けて検討が行われ、実際に大企業を中心に、ジョブ型雇用に切り替えたニュースも増えました。ジョブ型雇用導入とセットでタレントマネジメントも導入されています。

ジョブ型雇用に関する論調として、メリット・デメリットの二元論で語られることが多いですが、今回はそもそも「ジョブ型雇用」とは何か、タレントマネジメントにおけるジョブの考え方、について解説します。

ジョブ型雇用とタレントマネジメントの親和性

そもそも「ジョブ型雇用」とは、日本型雇用システムについてわかりやすく議論・検討するために作られた理論モデルです。労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏が、日本の大企業を中心に見られる雇用システムを「メンバーシップ型」とする一方、欧米で一般的な雇用システムを総称して「ジョブ型」と名づけたことに由来します(濱口桂一郎「新しい労働社会-雇用システムの再構築へ」岩波新書、2009年)。欧米の雇用システムを「ジョブ型」と位置付けていることも多いですが、本来は特定の国や地域に存在する実在の雇用システムを指す概念ではありません。

メンバーシップ型とジョブ型の違いについては、様々な整理がされていますが、ざっくりまとめると、以下の通りです。

◆メンバーシップ型:「人に仕事をつける」
新卒一括採用を基本に、明確な職務(ジョブ)を提示せず、研修やジョブローテーションで経験や能力を身につける。上司が部下の成長や人間性や将来性 あるいは実施プロセスといった定性的なジャッジをするという行動評価や能力評価を行い、その結果、勤続年数・年齢をベースに、一律で徐々に職能等級=給与レンジが上がっていく職能資格等級制度と定期昇給制度という年功序列型の賃金制度を採用することが多い。

◆ジョブ型:「仕事に人をつける」
企業があらかじめ定義した職務内容(ジョブ)に基づいて必要な人材を採用する制度。採用のタイミングで企業側が求める「職務」を満たすスキル・知識を従業員側が持っている必要があり、職務に対して何らかの空きが発生、新規事業等で新たな職務が発生した場合に企業側は募集する。従業員へ支給する報酬についても職務記述書に記載されている内容に基づき実施、人事評価は上級の職務以外では実施せず、昇格や昇級についても上位の職務に空きや公募が発生し、それに対して応募し、合格しなければ発生しない。

ジョブ型雇用とは、「社員に対して職務内容を明確に定義し、社歴や労働時間ではなく、その職務の成果で評価する雇用制度」のことであり、タレントマネジメントとは、「企業で働いている人材(タレント)の能力やスキル、適性を中心に考え、個々人が持つスキルや意欲を十分に発揮してもらえるように、組織風土、業務改善、人材配置や人材育成などを行う人事戦略」のことを指します。

一般的には、タレントマネジメントを行う上での前提がジョブ型雇用であると言えます。メンバーシップ型の企業でもタレントマネジメントを導入していますが、基本的には、ジョブ型で採用されているポジションの最適配置や人材育成を戦略的に行うことこそがタレントマネジメントであるため、ジョブ型雇用との親和性は高いと考えられます。

タレントマネジメントにおけるジョブの考え方

メンバーシップ型とジョブ型の大きな違いのひとつとして、職務(ジョブ)を定義しているかが挙げられます。

タレントマネジメントでは、従業員情報の見える化において、スキル管理という考え方を用いていますが、スキルや知識があるからこそ、ジョブの遂行が可能になると考えます。役割は何か、その役割で遂行すべきジョブを定義したものが職務定義書(ジョブディスクリプション)です。ジョブディスクリプションがあるからこそ、タレントである従業員がどのジョブを担当し、そこに紐づく能力(スキル・知識)をどの程度、保有しているかが把握できます。

ジョブディスクリプションを定義する手順については、「タレントマネジメントにおけるスキルの見える化とは?」をご覧ください。スキルの見える化について述べていますが、最初のステップで人材要件やスキルセットを構築するにあたって、スキル・知識だけで整理するのではなく、その下支えがあって、どんな役割(職種)がどんなジョブをどの範囲で担当するか、というジョブディスクリプションを一緒に考えることが大切です。

ジョブ=タスクの概念で、IT業界のスキル標準を再定義したものが、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表したi コンピテンシ ディクショナリ(iCD)です。2014年7月に試用版、2015年以降アップデートされ、現在は、一般社団法人iCD協会が独自タスクを追加し、発表しています。

ITスキル標準(ITSS:2002年発表)、組込みスキル標準(ETSS:2005年)、情報システムユーザースキル標準(UISS:2006年)、これら3つに加え、プロセス体系(CCSF追補版、ITIL等)と知識体系(情報処理技術者試験、PMBOK、BABOK等)の膨大な量の項目をタスクとスキルに分けてディクショナリとして定義しています。また、iCDは、200以上の国で使用されているデファクトスタンダードのスキル標準であるSFIAとも連携をしています。

ジョブディスクリプションを一から策定するには、膨大な時間がかかります。ご紹介したものはIT業界のものですが、iCDを文字通り辞書として、また参考にして、自社のジョブ、タスクを整理し、ジョブディスクリプションを定義すると工数もかからず、MECEに検討ができます。

ジョブ型雇用の運用をタレントマネジメントが支援する

タレントマネジメントの導入のポイントについて、今までのブログでご紹介してきましたが、ジョブ型雇用を導入するにしても、目的そのものを見失わないように留意する必要があります。それは、ジョブ型雇用を入れれば、すべて解決!でもなく、ジョブ型雇用を入れることが目的にならないことを常に頭に置いておくことです。

現在のメンバーシップ型雇用との二軸対立でジョブ型雇用を検討するのではなく、企業の経営目標達成、そこで働く従業員のモチベーションを向上させ、最大の成果を発揮してもらうために、ジョブ型雇用とタレントマネジメントの導入を検討すべきです。

ジョブ型の最大のメリットであるジョブとスキルを明確に提示することで、タレントである従業員が自律的に成長するサイクルを回すことができます。そのためにもジョブディスクリプションは、一度策定したものを使い続けるのではなく、ジョブの定義や評価の軸を定期的に、継続してメンテナンスしなければすぐに現実との乖離が生まれ、あっという間に形骸化してしまいます。これは、タレントマネジメントでも同じことが言えます。

人材マネジメントは「制度が2割、運用が8割」と言われます。いい制度を構築しても、外部・内部環境の変化に応じて、人材マネジメントも変化に順応していく必要があります。そのため、ジョブディスクリプションは生き物と考え、定期的なメンテナンスを行います。メンテナンスの負荷を軽減させるには、タレントマネジメントシステムを活用し、支援してもらうことが重要です。

まとめ

いかがだったでしょうか。

コロナ禍という要因だけではなく、ビジネスにおける変化が起きるスパンが短くなってきている今、事業の在り方、働く人の在り方に大きな変化が訪れています。モノからコトへ、ライフワークバランスといった社会における価値観が変わり、従来の在り方では企業の成長が鈍化していくと考えられます。

今回は、タレントマネジメントとジョブ型雇用について述べてきましたが、このマッチングがすべてを解決するわけでもありません。かといって、課題をひとつひとつつぶしながら、手直しを加える人材マネジメントの在り方では社会の大きな変化に対応しきれず、結果として企業の存続にも影響を及ぼします。

また、今までのメンバーシップ型雇用のメリットをすべて捨て去るのではなく、企業と従業員が成長し続ける組織づくりのため、ひとつの型にあてはめず、自社の強み・良さを伸ばす人材マネジメントを目指し、検討していくべきではないでしょうか。

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