タレントマネジメントで職務経歴をデザインする

タレントマネジメントの活用で一番重要なポイントが人材データ、つまり従業員情報の見える化、ということを今までお伝えしてきました。社員ひとりひとりが現在行っている仕事、保有しているスキルや資格はもちろん、過去の経験や将来、どういうキャリアを積みたいのか、といった従業員の職務経歴は、人材に関する戦略を練る上でも重要なファクターのひとつです。ですが、職務経歴はより積極的に活用できる余地があるにも関わらず、採用時に提出されたままで保持されていることがほとんどです。

今回は今までは採用のみで使われることが多かった職務経歴を計画的・戦略的にデザインし、アップデートし、タレントマネジメントへ組み込むポイントについて解説します。

タレントマネジメントで職務経歴をデザインする

これまでのブログでタレントマネジメントとは、元々アメリカで提唱された人材戦略で、企業が掲げている経営目標を達成するための人事施策を戦略的に考え、従来の人材マネジメントを変えることで企業や組織の生産性を高めることを狙いとした手法、とご紹介してきました。

経営環境はますます加速度的に、変化が激しくなり、変化の内容も多様化しています。人材に求める要件も過去の成功体験を頼りにした仕事の熟練度や正確性から変化に対応する力や変化そのものを生み出す力がより求められます。

企業における人材育成は主にOJTとOFF-JTの組み合わせにより、各自がスキルアップし、専門性や熟練度を上げる仕組みが構築されています。
人材育成の一環として、目標管理で研修受講や資格取得を計画し、実行した結果を達成度で評価しますが、ここで中心となるのはOFF-JTの履歴です。OJTを含む業務遂行における担当範囲や役割、レベルといった実務の経験を履歴として管理している企業は少ないのではないでしょうか。

米国の人事コンサルタント会社であるロミンガー社は、経営幹部などリーダーシップを発揮するために有効であった要素の調査・分析を行いました。その結果、7割が業務経験、2割が薫陶、1割は研修であることが判明し、これをロミンガーの法則と名付けられました。7割を占める業務経験から、OJTを含む職務の経歴を管理する重要性はお分かりいただけると思います。

また、企業内でモデルとなる人材に実務経験や自己啓発、行動特性などについてヒアリングすると、専門性と熟達度を伸ばすスペシャリストとしての能力と多面的・多角的な視点や思考を広げるゼネラリストとしての能力をバランスよく伸ばしていることに気がつきます。しかし、残念ながら計画的に成長してきたのではなく、たまたまOFF-JTでマッチする研修や資格取得ができた、OJTや実務で経験を積むことができたといった偶発的なものであることが多いのも事実です。これでは、あまりにも育成の効率としては悪いと言わざるを得ません。

職務経歴を偶発的な積み重ねから、計画的・戦略的にデザインするポイントは2つです。
①全社共通の人材マネジメントの判断基準(担当する職務、目標設定や昇格、昇進、異動の判断基準)を経営者、現場のマネージャー、人事部門が共有する
②職務経歴を人材データベースに取り込み、見える化する

職務経歴を計画的・戦略的にデザインすることは、タレントマネジメント導入プロセスと似ており、タレントマネジメントシステムを活用することで、上記2つのポイントを効率的に構築することができます。

職務経歴をアップデートし、タレントマネジメントに活かすには

職務経歴は一般的に採用時に、履歴書とともに職務経歴書として応募者から提出されることが多いと思います。ですが、採用が決まり、入社した後は、その職務経歴書は紙やPDF等の電子データとして人事で保管されたままの企業が多いのではないでしょうか。

なぜなら入社時に本人から、また人材派遣会社などからプロジェクトに参画する場合に提供される職務経歴は記載されている内容、レベル感が違い、情報としての粒度が揃わず、管理に適していないと判断されるからです。

職務経歴を収集、蓄積することがタレントマネジメントの肝である人材データ、つまり従業員情報の見える化の質を高め、さらには人材育成の質、効率アップにつながると考えることで、採用時に収集する職務経歴の項目もアップデートする必要が出てきます。

人事担当者は、アップデートした自社独自の職務経歴を採用プロセスのどの段階で応募者に提出(入力)してもらうか運用を考えます。また、現場のマネージャーや経営層が面談する際に応募者の職務経歴を提供することで、採用面談で採用の判断基準(採用するかしないか、自社内ではどのレベル、等級に該当し、報酬はどの程度か、配属先や職務、役職はどうするか等)を統一することができ、採用のミスマッチ、早期離脱を防ぐことができます。

また、入社後は目標管理や人事評価と同時に職務経歴をアップデートさせ、タレントマネジメントに蓄積させていくことで、OJTやOFF-JTの質を高めるだけではなく、新しい職務経験を積む配置や異動の適切なタイミングを分析することにも役立ちます。等級に求められる基準に達する、上回る職務の遂行を目指す段階か、上位等級の職務遂行準備を整える段階かといった昇格、昇進の基準をより明確にアップデートすることにもつながります。

職務経歴を単なる過去の職歴、職務の経験として自己申告のみで消極的なものとせず、重要な人材データとしてアップデートさせ、タレントマネジメントに組み込むことで、企業にとっても、従業員にとっても、有益な、質の高い人事施策を構築することができます。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今までは採用のみで使われることが多かった職務経歴を計画的・戦略的にデザインし、アップデートし、タレントマネジメントへ組み込むポイントをご紹介しました。

経営環境の変化は不確定で突発的な外的要因に大きく影響を受け、その影響は今後もますます大きくなるでしょう。企業もその状況に適応し、変化を伴わなければ、永続的に活動を続けることが難しくなってきます。変化を創出する、変化に適応するには、そこで活躍する人材なくしてはなし得ません。そのために、戦略的な人材マネジメントであるタレントマネジメントはより注目を集めるでしょう。

タレントマネジメントの成否には人材管理、データのマネジメントがカギを握ります。タレントマネジメントの導入プロセスで、従業員情報の見える化でも活用しきれていない職務経歴をデザインし、アップデートさせ、さらにタレントマネジメントを効果的に活用することを考えてみてはいかがでしょうか。

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