人財育成の仕組みづくり

モチベーションが人材育成でなぜ重要かを考える

モチベーションとは、人が目標に向けて動くための「原動力」となるものです。「動機」や「やる気」、「意欲」と表現することもありますが、最近は、何かをやるときにテンションが上がった状態を「モチベーションが高い」と表現することも多く、幅広い場面で用いられています。人の行動と成果には因果関係がありますが、その行動を起こすためのエンジンとなるモチベーションは人の心、つまり価値観や願望、自己肯定感などに基づくものであり、多様であるため、モチベーションのコントロールやマネジメントもひとつの正解があるわけではありません。本記事では、モチベーションが人材育成でなぜ重要か、について解説します。

代表的なモチベーション理論とその変遷

人材育成や組織開発においてモチベーションが重要なカギであり、モチベーションを知るにはまず人の心について理解する必要があります。ざっくり流れを追うと、当初モチベーションの研究は人の欲求や行動の動機など、人の心の分析に着目したものが主流で、人がやる気を出すメカニズムについて主眼が置かれる傾向にありました。そこからリーダーシップ論、組織マネジメントの理論として論じられるようになりました。

仕事におけるモチベーションの始まりと言われているのが、1911年のフレデリック・テイラーが提唱した「科学的管理法」です。テイラー・システムと呼ばれる管理法で、効率よく工場での生産を行うために、作業内容、手順、時間をマニュアル化することで標準化を図り、全工程を見える化したことが大きな特徴です。しかし、業務効率化が進み、生産力が上がる一方、製造現場では深刻な離職率に悩まされていました。

産業心理学者のメイヨーは、数値のみで管理している人のモチベーションに必要なことは人間関係による動機づけだと主張し、1924年から1932年の長期にわたり、人間関係によるモチベーション向上を証明するための実験を開始します。ホーソン実験として知られる実験を通して導き出した結論は、生産性を決定するのは、職場にいる作業員同士で自然に作り上げられる仲間意識であり、彼はこれを「 非公式組織(インフォーマル組織) 」と呼びました。人間は感情で動く生き物だという彼の考え方は、「人間関係論」として知られるようになり、その後のモチベーション理論に大きな影響を及ぼすことになりました。

メイヨーの「人間関係論」は、「欲求5段階説」で知られるアブラハム・マズローなど多くの研究者に引き継がれます。マズローは、人間は自己実現のために絶えず成長する生き物だという考えから、人の欲求には5つの段階(生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求)があり、自己実現を達成するまでに段階的に満たされていくものと理論づけました。

このマズローの思想を経営組織の観点から深化させたと言われるのが、ダグラス・マクレガーです。彼は人間の本性を「仕事嫌いで怠け者なX部分」と、「自己実現をしたいというY部分」に分けて捉え、人の心を分析することに留まらず、それに対する管理者の行動を明示するという、企業運営により重要な観点を盛り込んだ「X理論、Y理論」を提唱しました。

これまでのモチベーション理論は、仮説をベースにしたものが多かった一方、実証実験から生まれてきたのが、フレデリック・ハーズバーグが1959年に発表した「二要因理論」です。この調査研究からモチベーションを決定づけるのは動機づけ要因(仕事の内容からもたらされる満足感)、衛星要因(仕事の環境からもたらされる不満)の2つであると主張しました。彼のもうひとつの功績は、人材の内なる心のエネルギーを高めることで仕事へのモチベーションを高める「内発的動機」と、外からのインセンティブを与えることによって意欲を引き出そうとする「外発的動機」という考え方です。

ハーズバーグが提唱した「内発的動機」に着目し、人が行動を起こす際に見られる動機を4つ(達成欲求、権力欲求、親和欲求、回避欲求)に分類し、程度の差はあれども、必ずこれらの動機によって人が動かされていることを主張したのがデイビッド・C・マクレランドです。彼の「欲求理論」では、その動機タイプに応じて、リーダーシップの取り方も提唱することで、極めて実践的な理論を提供しました。

マクレランド同様、心理学的なアプローチでモチベーションの研究を行ったのが、エドウィン・ロックとゲイリー・レイサムです。1984年に発表された「目標設定理論」は、定める目標の内容によって、従業員のモチベーションが左右されることを示したもので、現代の多くの企業が取り入れる目標管理型の人事戦略に多大な影響をもたらしました。

この「目標設定理論」から影響を受けたのが、現代モチベーション研究の代表的な理論の一つでステファン・ロビンスが広めたと考えられる「期待理論」です。ロビンスの「期待理論」とは、「人の行動は、その行動が定められた報酬につながるという期待と、達成される成果が本人にとってどれだけ魅力があるかによって決定される」という考えです。

その後、マズローの自己実現を仕事環境に当てはめ研究を進めたクリス・アージリスは、未成熟な人材が成熟していくにつれて起きる人間的な変化を「未成熟-成熟理論」としてまとめ、企業組織における人材管理に多大な影響をもたらしました。また「欲求理論」を提唱したマクレランドは、置かれた状況や環境で適正を発揮するための能力を示す「コンピタンス」を、モチベーション理論にも応用し、「コンピテンシー理論」の立役者として現代を代表するモチベーション理論として知られるようになりました。

モチベーションに関する研究は、個人のものから組織の中でどうマネジメントするかに視点が変化していき、現在も発展を続けています。どれが正しい、ではなく、それぞれの理論の根底にある考え、背景、論点を整理して知っておくと良いでしょう。

人材育成を行う上で大切なモチベーションマネジメント

ハーズバーグは、モチベーションには、自分自身の心の中から湧いてくる感情によって行動へとつなげられる「動因(ドライブ)」と、外から向けられた報酬などによって行動が始まる「誘因(インセンティブ)」があるとし、「動因」をきっかけとする「内発的動機」と、「誘因」を用いた「外発的動機」の2つがモチベーションを向上させる動機づけになるとしています。

「外発的動機」は給与や賞与、ポジションといった自分の外にある目的に対して発生しますが、報酬は無限に提供できるものではありません。一方、「内発的動機」は自分の心の中から湧き出るもので、有限ではなく無限に引き出せるものと捉えられています。どちらが良い、悪いではなく、その特性を理解しながら、モチベーションを向上させる仕組みが必要となります。

ロビンスをはじめとする「期待理論」では、人の行動は、その行動が定められた報酬につながる期待と達成される成果が、本人にとってどれだけ魅力があるかによって決定されると言われ、行動に対するモチベーションは、3つの変数の掛け算で変わるとされています。
簡単に言うと、その変数とは「努力」、「成果」、「魅力」です。つまり、どの程度努力すれば成果に結びつくか、最終的に得られる報酬に結びつく可能性があるか、報酬に対する魅力を感じているかが複雑に関わり合い、その個人のモチベーションがアップ、ダウンするということです。

このモチベーションの公式(モチベーション=努力×成果×報酬)は、モチベーション向上を図るマネジメント層や人事、人材育成担当者、モチベーション向上を求められる社員の双方が共通言語として持った上で関係を築くことが大切です。

個人のモチベーションをマネジメントすることで、個人の生産性、業績や能力の向上といった成果が組織の力として大きな要因となることは説明するまでもありません。モチベーションをマネジメントする仕掛けはいくつかありますが、ここでは、代表的な3つについて紹介します。

①行動思考

人は面倒なことに直面すると「なんでこんなことをやらなきゃならないのか」「どうしてこうなったのか」と理由を考えてしまうのが思考の癖です。その思考から離れない限り、行動に移すことができません。面倒なこと、とは感覚的な表現であり、事実はただ手続きが多いだけ、と思考の切り替えを促します。何をすべきかに意識を向けると具体的な行動がしやすくなり、行動の継続、「努力」が続くことにつながります。

②ストレッチ目標

「成果」を上げるために、目標を設定しますが、人は求められた以上のことをしない傾向にあることを念頭におきます。目標達成、報酬の可能性を感じてもらうには、難しすぎず、簡単すぎず、具体的であること。手を伸ばせば何とか届きそうだが、今のやり方を続けていてはクリアできないと感じると、人は無意識のうちに選択肢を増やし、できることが増えると感じてもらうことが大切です。

③はしご効果

仕事の手段だけではなく目的や意義も併せて伝えることで、はしごのように手段→目的→意義と抽象度を高めることでモチベーションが高まると言われています。モチベーションの公式では「魅力」の度合いをアップさせます。

人材育成の軸にモチベーションを据える

多くの企業では、組織マネジメント、人材育成施策のひとつの手法として目標管理を取り入れています。あるメンバーが成長し、成果を発揮してもらうために、目標を立て、その達成に向けて日々の業務、活動を行いますが、残念ながら定例業務のひとつとして目標設定と面談となっていることも多いのも事実です。

目標管理は目標を設定し、その目標の達成度やそのプロセスを評価し、処遇へつなげるという点では、モチベーション向上の仕組みのひとつで、個人、組織の業績や人材育成の面でもまだまだ活用の余地が残されています。

目標とは「これをしたい」「ここまでは達成したい」「ここまでにはなりたい」とその人個人が思う欲求です。「目標を宣言したからには達成しなくては」と過度に重圧を感じる人、「達成してもしなくてもこのままでいいか」とあきらめてしまう人、その人自身の感情で思考が変化し、行動に移せなくなってしまうこともあります。行動しないと期待していた成果にはつながりません。つまり、目標とは「未来の状態」をイメージし、「現在の感情や行動を喚起する」ものです。そのために、マネジメント側は、メンバーに対し、達成可能で具体的なマイルストーンを置き、適切なフィードバックで相手の感情、思考を切り替え、行動する(挑戦する)機会を与えることが最大の支援です。

日々メンバーは業務をこなし、多くの行動をとっています。その中で、適切にフィードバックを、と言われても、ほめたらいいのか、叱ったほうがいいのか、相手にかける言葉に悩むことは指導、育成する立場に立った誰しもが経験します。よく「相手の立場に立って」と言われますが、それぞれの個性、関係性の違いを全て把握し、その立場に立つのは難しいのも現実です。

人は価値観やものの受け止め方から感情が発生し、思考につながり、その思考が行動するかどうかを決めています。なぜそういう行動をとったのか、あるいは取らなかったのかには、そうさせている感情が根源にあることを認識しておくことが必要です。つまり、人材育成において、相手の立場に立つ、というのは、その感情が行動を起こすモチベーションを左右していることを知り、相手が何かに対して感じている「快感」と「痛み」にフォーカスを当て連想すること、と考えることができます。モチベーションを軸に据えることで、相手の行動変容にきっかけを与えるポイントが絞りやすくなります。

コーチングやティーチングといった育成に関するスキル、教育研修や目標管理といった育成の仕組みはあくまでも人材育成において手段にすぎません。メンバー本人が成長したいという欲求に対し、人材育成の軸にモチベーションを置き、どういった状態か、それに対して打つ手としてスキルや仕組みをうまく組み合わせていくことで、成長をマネジメントしていくことが人材育成の鉄則です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

モチベーションに関する研究は現在も続いており、最新の研究をまとめた書籍も多く出ています。ダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」も参考にしてみるといいかもしれません。

価値観の多様性、それぞれの個性を活かす動きが今後、組織の価値を高めるひとつのカギであることは間違いありません。モチベーションは心の動きであることから捉えることは難しいように思えますが、シンプルに何かに向かって頑張る源と捉えることで、現在ある仕組みをアップデートさせていくことができると思います。

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