マネジメント層が大きなカギを握るタレントマネジメント

近年、社会情勢の変化から働く「人」に着目した「タレントマネジメント」が注目されています。タレントマネジメントの考え方やシステムを導入すれば、人に関するあらゆる課題が一気に解決するわけではありません。課題解決のためには、現場のマネジメント層の協力が不可欠です。では、マネジメント層にどのように協力を求めればよいのでしょうか。

今回は、タレントマネジメントが成果を出すために、現場のマネジメント層に力を発揮してもらうにはどうすればよいか、人事担当者が押さえるべきポイントについて解説します。

マネジメント層の分類とマネジメント、マネージャーの定義

日本では、マネジメント層というと部長や課長といった「中間管理職」を指す言葉として一般的には考えられています。では、マネジメント層とは、そもそもマネジメント、マネージャーの役割はどう定義されているのか、少し紐解いていきましょう。

マネジメント層の分類

大きく3つに分けられます。
・トップマネジメント:社長や経営者、役員などの経営層を指す。経営計画の策定や事業の方向性の決定など、組織の根幹となる部分を担う。
・ミドルマネジメント:部長や課長など「中間管理職」と呼ばれる立場にある人物の層を指す。部署・部門における業務の運営や、部下の管理・育成、トップマネジメント層との業務調整などの役割を担う。
・ロワーマネジメント:係長や主任、チームリーダーなど、現場にもっとも近い立場で指揮や管理をおこなう人物の層を指す。ミドルマネジメント層からの指示や目標を達成すべく、現場の実務を遂行する社員に対して指揮や管理をする役割を担う。

タレントマネジメントの仕組みにおいては、特にミドル、ロワーマネジメント層が自社にタレントマネジメントを導入する意義や目的、自身が担う役割について理解を深めてもらうこと。また、現場メンバーの管理や育成にどう活用し、組織の成果を最大化できることにメリットを感じてもらうのか、が重要なカギを握っています。

マネジメントとは?マネージャーとは?

そもそもマネジメントとは、企業が、組織の成果を上げるために経営資源(ヒト・モノ・カネ)を効率的に活用し、リスク管理のもとに、「目標」や「ミッション」の達成を目指すことです。「マネジメント(management)」が持つ英語の意味は、「経営」や「管理」などで、これがビジネスシーンに転用されました。

「マネジメント」の概念は、「マネジメントの父」と称えられているアメリカの経営学者、ピーター・ファーディナンド・ドラッカー(P.H.ドラッカー)が、1973年に刊行した著書『マネジメント』の中で提唱した言葉だとされています。ドラッカーが著書の中で「マネジメント」と、マネジメントの遂行者である「マネージャー」を以下のように定義づけています。

・マネジメント:組織に成果を上げさせるための道具・機能・機関
・マネージャー:組織の成果に責任を持つ人物

マネージャーは「成果の責任者」である以上、組織が確実に目標達成を可能にする「マネジメント能力」が必要不可欠です。
では、なぜ企業には「マネジメント」が必要なのでしょうか。
企業は持続的な発展があって始めて成果を生み出せる基盤が生み出されます。その基盤の中において、成果を最大化させるため多様な人材がチームを組み、人材を育てることが社会的な役割としてどのような企業でも求められているからです。

タレントマネジメントは「企業で働いている人材(タレント)の能力やスキル、適性を中心に考え、個々人が持つスキルや意欲を十分に発揮してもらえるように、組織風土、業務改善、人材配置や人材育成などを行う人事戦略」であり、特にマネジメントのヒトにまつわる戦略です。

その戦略を実際に実現に向けて動く際に、タレントである現場のメンバーと日々接するのは、ミドルマネジメント層、ロワーマネジメント層です。
また彼らもタレントのひとりとして、組織を活性化させ、メンバーの育成や成長に力を注げるように、タレントマネジメントの仕組みの中で自身の適性やスキルを十分に発揮してもらうことが必要です。

タレントであるマネージャーに求められる役割、タスク、スキル

マネジメント機能において、マネージャーに求められる役割、そしてマネジメント能力にはどのようなものがあるのでしょうか。

先に紹介した「マネジメント」の生みの親・ドラッカーは、マネージャーは組織の成果を向上するため、責任を持ってマネジメントする必要があり、その役割には、以下のようなことを挙げています。

・組織作りとミッション達成:目標を設定して組織を作り、ミッション達成に向けて業務を遂行する
・部下の統率・育成:部下とコミュニケーションをはかり、目標達成のための動機づけを行う
・成果の評価測定:評価に留まらず、その結果に基づいて部下への指導や人材育成を行う

より具体的にマネジメントのタスクで考えると
①目標設定
マネジメントを行う場合、まずは「目標」と「ゴール」を明確で具体的に示す必要があります。そして、決定した目標の実現に向けて、何をすべきかを決め、その上で、メンバーにその目標を周知し、理解させ、社内全体に浸透させていきます。
②組織化(適材適所の配置)
目標達成のために必要な活動や意思決定、そして関係などについて分析し、その「役割」を分類する。さらに「役割」に紐づく「業務(タスク)」を洗い出し、組織作りに必要な役割、タスクの分析を行う。その上で、適材適所で人材を配置し、組織化していきます。
③動機付け
「動機付け」とは、つまりモチベーションをコントロールすることです。マネージャーは、仕事そのものや、インセンティブ・報酬・昇進昇格などによって、部下のモチベーションの維持をはかる必要があります。これは、上司と部下、管理者と業務担当者といった双方向のコミュニケーションによって行われるべきであり、この「動機付け」によってチームがまとまり、組織の力が最大化される源泉となります。
④評価
マネージャーはメンバーを評価するための「基準」を設けなければなりません。基準は、組織そのものに大きな影響を及ぼすものであり、マネージャーは、メンバーが「組織全体の成果」と「自身が担当する仕事」に対して、向き合えるように促す必要があります。さらに、メンバーの仕事ぶりを分析・評価し、フィードバックも行います。
⑤人材育成
マネージャーが行うマネジメントのあり方次第で、メンバーの強みや特性を発揮させることもあれば、能力や強みを引き出せないまま終わってしまう危険もはらみます。マネジメントが正しく行われ、マネージャー自身を始めとした全メンバーに向けた「人材育成」に取り組み、ひとりひとりが活躍できる準備、機会を計画する必要があります。

マネジメントのスキルは、マネージャーのみならず、メンバーも自身の仕事をマネジメントするという意味では、必要不可欠なスキルと言えます。ですが、マネージャーはより高いレベルでそのスキルを保有することが求められます。また、企業規模や組織文化などによって企業ごとに必要とするマネジメントスキルのセットがあるかと思いますが、欠かせない4つのスキルについてご紹介します。

①意思決定力
マネージャーはとにかく重要な局面で判断を迫られることが多く、その際に全員の賛同を得られることはめったにありません。多くの異論や対立があるなかで、客観的な材料だけでなく、自分の軸も持ちながら意思決定を行います。組織のビジョンと矛盾したり、方針にブレがあれば、部下からの信頼度が著しく低下するため、意思をはっきりと示し、進むべき方向を提示することで部下は上司を信頼し、仕事を進めることができます。
②コミュニケーション力(伝える・コーチングスキル)
組織の目標を示すだけでなく、達成に向けた方法を伝えたうえで、マネージャーは自分の考えをメンバーに理解してもらう必要があります。また、メンバーのもつ能力を引き出すには、普段からのコミュニケーションが非常に大切です。相手の存在を認め、適切なコミュニケーションを重ねることによってメンバーの可能性や行動力を引き出すことコーチングのスキルは高いコミュニケーションスキルがあって初めて成り立つものであるといえるでしょう。
③プロジェクトマネジメント力
いつまでに何をどのように行い、どのような結果を出さなければならないのかを決められたプロジェクトが発生した場合、マネージャーは誰をどの担当にし、どういう方法でプロジェクトを進めていくのか、コスト面を考慮しながら論理的に考え、目標達成に導くかなければなりません。
プロジェクトマネジメントはIT、特に開発現場では専門職種が置かれるほど重要な役割と認識されていますが、これはマネジメントに関わる様々なプロジェクトを計画、実行するマネージャーには絶対に欠かすことができないスキルです。
④分析力
組織の課題解決や目標達成は、経験や勘だけで実現することはできません。データを分析しながら戦略を立てていかなければ、的外れな施策ばかりを生み、組織を誤った方向に導いてしまいます。分析した結果をPDCAサイクルに還元し、改善を図っていくことで組織の成果も大きく変わっていきます。

タレントマネジメントを成功へと導くマネジメント層との協働

タレントマネジメントに関わらず、マネジメントの仕組み、システムを変えるときに、推進する側で懸念されるのが、現場からの反発、非協力的な取り組み方でなかなか進まないことです。たとえ、経営目標を達成するための人材戦略であることを説明したとしても、マネージャーたちは自身の組織マネジメントで手一杯のため、他人事のように感じているのかもしれません。

では、どうすればよいのでしょうか。
新しい制度や仕組みを入れるときに、人事担当者は現場のマネージャーやリーダー向けに説明会を行うことがほとんどです。説明時の表情やしぐさ、意見交換の際に協力的な人、そうではない人に分類して、それぞれに対し、ヒアリングを行ってみることです。

設問をあらかじめ準備しておき、導入することで何が変わるのか、メリット・デメリットについてざっくばらんに人事担当者が開示していくことで、相手のマネージャーが懸念している点や賛成している点を丁寧に聞き取ることが重要です。

現場の意見を聞くことは重要ですが、タレントマネジメント導入の方針や目的、軸をぶらさず、現場の意向をうまく取り入れるようにします。すぐに取り入れられない場合もあるため、その内容はマネージャーにも共有しておくべきです。

また、いきなり組織全体に適用するのではなく、協力的なマネージャーの部門、チームから適用する方法もあります。パイロットでタレントマネジメントの適用を行い、その中で出てきた導入時の課題や解決法を蓄積し、次の段階でそのノウハウを活かし、現場の負担を減らす策や現場がメリットに感じる点をブラッシュアップさせていきます。

パイロットで適用した組織の成果を人材の側面から見える化し、導入することで組織の力が伸びたことを証明していくことで、必ず次にチャレンジしたいというマネージャーは現れます。そうやって小さい成功体験を重ね、共有することで、組織に対し、良い影響を拡げていくことが一番の近道ではないでしょうか。

タレントマネジメントでは、メンバーひとりひとりの適性や業務、スキルや能力に関する個人のデータや組織のデータを集め、分析し、組織の成果につなげるまでに時間や人員コストがかかります。現場のマネージャーからはそのコストを企業として負担してくれるのか、といった意見も出てきます。
そのためにも、タレントマネジメントを推進する人事担当者は、あらかじめトップマネジメント層に働きかけ、コスト負担の調整を行っておくことも必要となります。

人事戦略であるタレントマネジメントをスムーズに導入するプロセスは容易ではありません。また方法もひとつではありません。現場でマネジメントを行うマネージャーと協働しながら、成果を出し続けていく、着実なPDCAを回していくことが推進役には求められます。

まとめ

いかがだったでしょうか。

タレントマネジメントだけではなく、その他の人事施策を推進するときには、マネージャーの力を借り、プロジェクト成功に向け、協力して進めていくことで、組織の風土にも変革が起き始めます。タレントとしてお互いの強みを活かしていくことで、素晴らしい成果に結びつくことでしょう。

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