人財育成の仕組みづくり

人材育成の視点でファシリテーションを考える

プロジェクトや組織における課題解決や情報連携のために、定例ミーティングと銘を打ち、定期的に時間を決め、関係するメンバーが集まる会議体があります。ポジションが上がれば上がるほど、1日のほとんどがそういった会議で時間を費やされているのではないでしょうか。議題に沿って、発表者が一方的に状況を説明し、決定権限を持つ者が解決策や決定事項を指示し、同席するメンバーは聞いているだけ、集まった人の時間を使うという点では会議は非常にコストがかかるのに対し、見合った成果が発揮できていないと感じる方も多いと思います。同じように研修でも一方的に講師がカリキュラム、テキストに沿って説明をするだけで、学びの主体である受講者の理解度や納得感を無視した状態ではせっかくのコストが無駄になる、というよりもメンバーの学びの意欲を大きく削ぎ、成長の機会を損失させてしまうリスクはより深刻な問題です。本記事では、会議や議論で活用しているファシリテーションのスキルを人材育成の視点で研修やワークショップに応用し、成果の質を上げられるか、について解説します。

ビジネス、人材育成の場で活用されるファシリテーションとは?

「ファシリテーション(facilitation)」とは、元々はラテン語の「実行できる」から転じ、「(物事を)容易にできるようにする」facilitateという動詞に「tion」をつけ名詞になりました。日本では、「ファシリテーションする」というように名詞表現を動詞として使う場合が多く、英語との大きな違いです。ファシリテーションの派生語として、「ファシリテーター(facilitater)」があり、「(物事を)容易にできるようにする人、物」を指します。

ファシリテーションの起源はいくつかありますが、1960年代にまず体験学習の始まりとしてエンカウンターグループと呼ばれるグループ学習で学びを促進する技法がアメリカで生まれました。もうひとつの流れとして、同じ時期にコミュニティの問題を話し合う技法としてワークショップやファシリテーションの技法が体系化されてきました。
前者はそのまま教育系や体験学習に、後者は市民参加型のまちづくり活動など社会課題の解決法として定着していきました。

ビジネスの世界では、同じくアメリカで1970年代から主に会議やプロジェクトを効率的に進める方法として活用が始まり、現場主導型の業務改善手法として応用されるようになりました。現在の支援型リーダーへの関心の高まりもこの流れの一部です。

日本では一部の外資系企業でファシリテーション技法が知られていましたが、広く認知されるようになったのは2000年代からでしょうか。今ではファシリテーションという言葉が普通に使われるようになりました。

ファシリテーターの起源は、カール・ロジャーズの1954年の著書において、グループ・カウンセリングと個人の行動の変化を解説しているのが最初だと言われています。その後、1970~80年代にイギリスにおいて複合民族文化の教育プログラムにつながり、その教育プログラムの進行役がファシリテーターと呼ばれました。

日本では1950年代に、すでにファシリテーターが存在していたようですが、現在とは違い、カウンセリングの機能のみを担っていたようです。80~90年代に国内外の社会問題に対処する上で、ファシリテーターの役割や存在が大きくなってきた経緯があります。
このような経緯を考えると、ファシリテーターとは、ビジネス分野だけではなく、教育や学習、個人や社会課題に関して解決を図るために議論を促す人たちのことを指すと言えるでしょう。

ファシリテーションの機能を知り、人材育成に活かす

ファシリテーションは「人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう舵取りする」ために、4つのスキルを会議の目的に合わせて、組み合わせます。その舵取り役を担うファシリテーターは段取りや進行といった活動の目的を達成する外面的なプロセスと共に、参加するメンバーの頭の中にある考えや感情の動き、メンバー同士の関係性など心理的なプロセスにも配慮し、関わることで人と人の相互作用を促進、成果を最大化させること、人材育成の場のひとつとして会議やチーム活動を捉えることが重要です。
4つのスキルは以下の通りです。


①場のデザイン(共有)

会議の目的(意思決定、アイデア出し、情報共有など)を押さえた上で、会議の場所や日時だけではなく、議題や参加メンバーの選定、会議のルールを決めておくといった事前準備を行います。

ルールを決めておくことで、時間内に終わらない、発言者が偏るといった問題が解消できます。会議の目的やゴール、議題は事前にメンバーに伝えおくことも大切です。必要に応じて、資料を配布して、前提情報を共有しておけば、チームビルディングが良い方向へ進みやすくなるでしょう。ゴールに向け議論の時間をデザインし、メンバーの関係性を考慮しながら、話しやすい場を用意し、メンバーを議論の主体として巻き込むことが求められます。

会議の冒頭に目的、ゴール、議題や会議のルールを改めて共有し、会議をスタートさせます。

②対人関係のスキル(発散)

話し合いが始まれば、できるだけたくさんの意見や考えを出し合い、理解と共感を深めながらアイデアを広げていきます。これを発散と呼び、これから生み出す結論への合理性と納得感を高めていきます。その際、参加メンバーは他のメンバーに遠慮し、関係性が影響して本音で意見を出せないことがよくあります。

ファシリテーターは、安心して意見を出しやすい環境づくりに努めます。 初対面の参加者がいる場合などは、最初に自己紹介や近況報告などチェックインの時間を設け、場を和ませてから 本題に入るとスムーズです。また、中立の立場を守り、同意・反対をせず、参加メンバーのメッセージを受け止め、発言者を勇気づけ、心の底にある本当の思いを引き出していかなければなりません。それと同時に、意見と意見の連鎖をつくり、幅広い論点で考えられるようにします。

具体的には、傾聴、応答、観察、質問などのコミュニケーションスキルが求められます。時には議論の偏りや行き詰まりが生じるため、別の視点を提案し、本筋に戻すことも必要です。特に昨今、オンラインで会議を行うことも多いため、大きくうなづくやあいづちを多めに行う、意見を聞き返す、言い換えることを実際に集まった場合より意識して、参加メンバーが話しやすい雰囲気づくりも重要になっています。

③構造化のスキル(収束)

発散をした後は議論を収束していく必要があります。時間をコントロールしたうえで、集まった意見を整理し、構造化していきます。その上で、議論の全体像を整理して、議論すべき論点を絞り込んでいきます。

そのときに威力を発揮するのが、議論を分かりやすく「見える化」することです。ロジカルシンキングをはじめとする、思考系のスキルの出番となります。物事の枠組みを整理するロジックツリーなどのフレームワーク(構造化ツール)やKJ法などアイデアの収束技法を臨機応変に活用すれば、効率よく議論が展開できます。ホワイトボード、ふせん(意見ごとに色を分けて使用)、パワーポイントなど参加メンバー全員がその場で「見える化」を共有できるように配慮します。

④合意形成のスキル(決定)

結論の方向性が絞られてきたら、参加者の合意形成を図る必要があります. 何を基準にして最適な選択肢を選ぶのか、異なる意見をどうやって融合させるのか、決め方を決めなければいけません。

この時に起こる現象が意見の対立です。コンフリクト(対立)マネジメントのスキルを組み合わせて適切な合意形成をおこない、参加メンバーの納得度を高めていけば、創造的な結論が得られ、その後のアクションプランへのモチベーション、一体感も高まります。

意見の合意が難しい方向に議論が進んだら、一度会議の目的を思い出すことが大切です。意見の対立なども目的に照らし合わせて、どの意見がより目的に適したものなのか考えるとよいでしょう。対立の構図に入ってしまうと、双方とも自分の立場でしか、ものを見ることができなくなってしまいます。ファシリテーターは、それぞれの立場から見た意見を中立的に相手側に伝えることで、双方に「視点の切り替え」を促します。また、妥協点や代替案を提示することも一つの手です。究極の手としては、会議の責任者などに一任して決着を図るのもいいでしょう。

ファシリテーターの力量が最も問われるところです。参加者に意思決定の方法を提示することが大切です。合意ができれば、結論やアクションプランを確認し、話し合いを振り返ります。ここで注意したいのは、会議で決定した事項は、蒸し返さないように振り返った後に、全員がOKの意思表示をしてもらうことです。そのためにも合意に達しなかった場合にも、必ず会議終了時点での状況を振り返る時間を設けましょう。

人材育成の視点でファシリテーションを考え、成果の質を上げる

人材育成の視点でファシリテーションのスキル、プロセスを考えてみましょう。

目まぐるしく変化する環境に対応するには、従来の上意下達で指示を出し、成果を求める方法ではスピードに対応できず、それぞれが自律的に、主体的に仕事を進める方法へマネジメントやチームビルディングも変化していく必要があります。ファシリテーションのメリットとして、新しい発想を生み出すことができる、生産性や参加者のモチベーションを向上させる、といったものがありますが、ファシリテーションを使えば、目覚しく会議やプロジェクトが活性化し、効率的かつ効果的にチーム活動を進めることができます。

さらには、大きな組織変革の場では、幅広い参加が納得を生み、納得が行動を生み出すファシリテーションが、成功の鍵を握っていると言っても過言ではありません。社会情勢の変化、働き方の変化とビジネス環境が大きく変わる中、社員のやる気と知恵を引き出し、個人、チーム、会社の成長に寄与する「ファシリテーター型マネジメント」が求められています。

研修の場においてもファシリテーションは重要です。従来の一方通行の講義型の研修から、社員の学びを引き出す参加(ワークショップ)型への研修へ転換するのに欠かせないものとなっています。

一方的に押し付けた答えでは人は動かず、その時は分かった気になっても、実際に学びを行動に移す人は少なく、いずれ忘れてしまうか、知識のみの定着で終わる可能性が大きいです。自分達で答えを見つけるからこそ、内的な動機が生まれ、人は変わろうとするものであり、そのプロセスを踏まないと本当の意味での成果に結びつきません。

経験を軸にした内省や相互作用を通じて、自己(組織)変容のプロセスをつくっていくファシリテーションスキルが、研修講師には求められます。コンテンツを押し付ける指導の場から、プロセスを舵取りする参加型の場へと、大きく変化しつつあることを人材育成担当者が認識して、研修や学びの場の設計を行うべきです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
ファシリテーションは単に会議を効率かつ効果的に活用するといった技術的な側面から、人、組織、社会の課題解決、変革に大きな影響を与える応用的なステージに入っており、求められるスキル、知識の幅も拡がってきています。

ファシリテーターは、常に好奇心を持ち、自身をアップデートさせること、価値観の多様性が進む中、意見を出すことを促進するためにはオープンマインドで出てきた意見やアイデアを肯定的に受け止めることがより求められるでしょう。

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