タレントマネジメントの人材像を策定するヒント(DX人材)~ デザイナー ~

現在、どの業界でもDXの分野は無関係ではなく、時代の波に乗り遅れずに企業成長していくためにも、企業全体の取組、行動が必要になります。しかし、DXと聞いても、どうすればいいのか、どんな人材やどんなスキル・経験が必要なのか不明瞭だという悩みは、よく耳にする話です。

せっかくタレントマネジメントを導入し、人材マネジメントを戦略的に行うことでDXを推進していこうとしても、DXの人材像が策定できなければ前に進むことができません。

今回は、タレントマネジメントの人材像を策定するヒントとして、DXを推進する人材の役割や習得すべき知識・スキルを定義したDX推進スキル標準(DSS-P)に登場する「デザイナー」という役割についてご紹介いたします。

タレントマネジメントの人材像を策定するヒント~DX人材・デザイナーとは~

一般的にデザイナーと聞くと、ITの分野ではない業界の役割のようなイメージがありますが、DXを考えるにあたり、ビジネスとITをデザインしてDXを推進する人材は必要不可欠です。
では、DX人材のデザイナーとは、具体的にどんな人材なのでしょうか?

デザイナーは、ビジネスの視点、顧客・ユーザーの視点等を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定し、それらに沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う人材だと定められています。

デザインに求められる役割は、単なる造形を美しくする役割から、人を起点とした価値創造・問題解決の手段へと変化していると、DSS-Pに記載されているように、デザイナーは、製品・サービスの方針や、開発のプロセスを定め、製品・サービスの在り方として、価値創造や問題解決の手段の提供をデザインすることが求められます。

少しイメージしづらいところもあると思いますので、デザイナーの具体的な役割や、求められるアクションをご紹介します。

役割① 顧客・ユーザー視点でのアプローチを、取組みの関係者が常に意識できるように導く
DXの取組みを考える際、顧客・ユーザー視点のアプローチは見落とされがちです。デザイナーは、DXの取組みのあらゆる場面において、顧客・ユーザー視点で関係者が取り組みを進められるように、サポートすることが求められます。

具体的には下記のようなアクションになります。
• 製品・サービスの構想において、収益性やコスト削減などの企業視点だけになっていないか確認し、顧客・ユーザー視点の検討をファシリテートする
• アプリケーション等の開発の場面においては、必要な機能が実装できているかだけではなく、顧客・ユーザーにとってのユーザビリティ(分かりやすさ、見つけやすさ、使いやすさ)が実現できているかを確認する

役割② 倫理的観点を踏まえた顧客・ユーザーとの接点(製品・サービスと顧客・ユーザーとが関わるポイント)のデザインを行う
 顧客・ユーザーとの接点をデザインするにあたっては、顧客・ユーザーにとってその製品・サービスが分かりやすいか、見つけやすいか、好ましいかといった要素だけでなく、倫理的な妥当性(例:非倫理的な誘導を行っていないか)も踏まえることが求められます。

人の行動原理や心理学を基にしてデザインを行うことや、でき上がった製品・サービスについて倫理的観点からのチェックを行い、非倫理的な要素が見つかった場合、差し戻すのもデザイナーが担う役割の一つです。

役割③他の人材類型との連携
デザイナーは、単独で求められる役割を果たすだけがすべてではありません。ほかの役割を担っているDX人材と連携し、協働関係を構築することも求められています。

他の人材類型や、DSS-Pの全体像については、「タレントマネジメントでDX人材のスキルを見える化するヒント~DSS-P編~」にも紹介されていますので、ぜひそちらをご覧ください。

タレントマネジメントでDX人材・デザイナーを策定するヒント~デザイナーのロール~

一言にデザイナーと言っても、担う業務によって違いがあります。DSS-Pでは、業務による違いを、ロールという形で区分しております。

企業規模や取組みテーマの規模などにより、1つのロールを複数人で担うこともあれば、一人が複数のロールを担うこともあるということを、頭の片隅に置いておくといいかもしれません。

「DX推進スキル標準(DSS-P)」では、企業や組織のDXの推進において必要な人材のうち、主な人材を5つの「人材類型」に区分して定義しています。その中の一つが「デザイナー」です。

デザイナーのロールは、DX推進のあらゆるプロセスを、大きく3つに分けて考えられています。

・デザイナーとビジネスアーキテクトとの協働関係
 顧客・ユーザー調査の結果から 導出されたインサイトを踏まえた製品・サービスのアイデアの検討
・デザイナーとデータサイエンティストとの協働関係
 顧客・ユーザー理解や製品・サービス検証のための調査、データ取得、分析、および分析結果の見せ方に関する検討
・デザイナーとソフトウェアエンジニアとの協働関係
デザインガイドライン、 ユーザビリティ、倫理的妥当性を考慮した製品・サービス の開発、評価、検証
・デザイナーとサイバーセキュリティとの協働関係
 セキュリティ強化によるユー ザーの負担感を低減させる UIの検討

  1. バリュープロポジションの定義、製品・サービスのビジネスモデルやビジネスプロセスのデザイン、方針(コンセプト)の策定
  2. 製品・サービスにおける顧客・ユーザー体験の検討、情報設計や機能や情報の配置、外観、動的要素のデザイン
  3. ブランドイメージの具現化、デジタルグラフィック、マーケティング媒体等のデザイン

それでは、デザイナーのロールをご紹介します。

サービスデザイナー

サービスデザイナーは、 顧客・ユーザーの課題特定や、バリュープロポジションの定義、製品・サービスの方針(コンセプト)の策定を行います。
そのため、スキル分野では、「顧客・ユーザー理解」や「価値発見・定義」で、知識だけではない高い実践力が求められます。

また、サービスデザイナーは、社会や社内外関係者(製品・サービス提供における関係者)の課題特定、製品・サービスの方針(コンセプト)を継続的に実現するための仕組みのデザイン、ビジネス視点からの実現可能性の検証をビジネスアーキテクトと協働して行うこともします。

そのため、「戦略・マネジメント・システム」や「ビジネスモデル・プロセス」関連のスキルについても、ビジネスアーキテクトと協働しながら実践できる程度の知識と実践力を幅広く持ち合わせていることが求められるロールになります。

UX/UIデザイナー

UX/UIデザイナーは、顧客・ユーザー体験の検討や、情報設計、機能や情報の配置、外観、動的要素のデザインを行うロールです。
そのため、「顧客・ユーザー理解」や「価値発見・定義」「設計」のスキルにおいて、知識とともに高い実践力が求められます。

また、製品・サービスのプロトタイプ作成を別類型(ソフトウェアエンジニアやサイバーセキュリティ等)と協働して行うため、「テクノロジー」関連のスキルや、顧客・ユーザーとの接点をデザインする際に必要な「プライバシー保護」のスキルについても、別類型(ソフトウェアエンジニアやサイバーセキュリティ等)と協働しながら実践できる程度の知識を幅広く持ち合わせていることが求められるロールになります。

グラフィックデザイナー

デジタルグラフィック、マーケティング媒体等のデジタル関連のデザインや、事業や製品・サービスを展開する中での各種コンテンツのデザイン全般を行うロールです。
そのため、専門性が高く、「その他デザイン技術」のスキルにおいて、知識とともに高い実践力が求められます。

また、ブランドのイメージの可視化、具現化をマーケティングやブランディングの専門家と協働して行うロールでもあるので、「マーケティング」や「ブランディング」のスキルについて、マーケティングやブランディングの専門家と協働しながら実践できる程度の知識と実践力を持ち合わせていることが必要となります。

以上3つが、DSS-Pで定められている、デザイナーのロールです。
同じデザイナーでも、役割によって求められるスキルが少しずつ違うので、タレントマネジメントにおいて人材像を策定する際に、ヒントとしてみてください。

また、DSS-Pでは、デザイナーのロールの中でも、DX推進をこれから始める企業が特に優先的にそろえた方が良いと明記しているロールがあります。

それは、UX/UIデザイナーです。

サービスデザイナーはビジネスアーキテクト類型でも一定カバーすることができ、グラフィックデザイナーは専門性の高さから外注という選択肢をとることもしばしばあります。

一方、UX/UIデザイナーが担う、顧客・ユーザー体験の検討や製品・サービスの設計は、DX推進の取組みにおけるデザイナーのコアな業務なため、DX推進をこれから始める際は、特に優先した方がよいとのことでした。

とはいえ、より規模の大きな企業では、全社的な変革を進める際、サービスデザイナーも重宝されるケースがあるため、タレントマネジメントの導入の際と同様、まずは目的を定め、その目的を達成するために必要な役割、役割に求められるスキル分野を考え、自社と自社の状況にあった策定が大切になります。

タレントマネジメントで人材像を策定するヒントにしたいDX人材・デザイナーが担う責任・主な業務

最後に、タレントマネジメントでDX人材・デザイナーの人材像を策定するヒントとして、デザイナーのロールについてもう少し詳しく、DSS-Pよりご紹介いたします。
各ロールが担う責任や、主な業務について記載しますので、自社のDX人材の人材像をイメージする際に参考にしてみてください。

サービスデザイナー

サービスデザイナーは、DX推進において、社会、顧客・ユーザー、製品・サービス提供における社内外関係者の課題や行動からバリュープロポジションを定義し製品・サービスの方針(コンセプト)を策定するとともに、それを継続的に 実現するための仕組みのデザインを行うことを責任として担っています。

具体的な、主な業務としては下記のとおりです。

・市場調査や顧客・ユーザー調査を通じて社会や顧客・ユーザー、製品・サービスを提供するステークホルダー全体の課題を特定し、顧客・ユーザー、事業、技術の観点を踏まえつつ、バリュープロポジションを定義する
・バリュープロポジションに基づき、製品・サービスの方針(コンセプト)を策定するとともに、それを継続的に実現するための仕組みのデザインを行う
・仮説検証(PoC等)、本格導入、導入後のそれぞれの段階において、バリュープロポジションや製品・サービスの方針の実現可能性(実際に顧客・ユーザーに提供したい体験を提供できるか、顧客・ユーザーにとって有用か、ビジネスとして成立するか)を検証する
・構想策定のプロセスの中で、共同作業者や顧客・ユーザーの意見を集約し、同じゴールへ導くための場のデザイン(コーディネート)や、その場のファシリテートを行う

UX/UIデザイナー

UX/UIデザイナーは、DXの推進において、バリュープロポジションに基づき製品・サービスの顧客・ユーザー体験を設計し、製品・サービスの情報設計や、機能、情報の配置、外観、動的要素のデザインを行うことを責任として担っています。

具体的な、主な業務としては下記のとおりです。

・バリュープロポジションに基づき、顧客・ユーザーが製品・サービスとの接点においてとる行動や、行動に至る経緯・思考・感情を可視化し、製品・サービスの顧客・ユーザー体験を設計する
・製品・サービスの方針(コンセプト)を、仕様・ガイドライン・デザインプリンシプル等の形に具体化し、顧客・ユーザーにとって心地よい体験を実現するための、製品・サービスにおける情報設計や、機能や情報の配置、外観、動的要素(Look&Feel)のデザインを行う
・PoCや本格導入、導入後のそれぞれの段階において、ブランディング、マーケティング施策と連動したWebやアプリケーション等のプロトタイプ作成を行う
・PoCや本格導入、導入後のそれぞれの段階において、ユーザビリティ評価(顧客・ユーザーが迷わず目的の情報までたどり着けたかの検証)を行う

グラフィックデザイナー

グラフィックデザイナーのDXの推進において、ブランドのイメージを具現化し、ブランドとして統一感のあるデジタルグラフィック、マーケティング媒体等のデザインを行うことを責任として担っています。

具体的な、主な業務としては下記のとおりです。

・ブランドのイメージを具現化し、デジタルグラフィック、マーケティング媒体等のデザインを行う

まとめ

いかがでしたか?

今回は、タレントマネジメントで人材像を策定するヒントとして、DX人材・デザイナーについてご紹介してきました。

デザインに求められる役割は、単なる造形を美しくする役割から、人を起点とした価値創造・問題解決の手段へと変化しているとご紹介した通り、様々な観点の役割や責任、スキルが求められてきています。

すべてがどの企業にも必要というわけではありませんが、タレントマネジメントで人材像を策定する際、改めて経営目標を達成するためにはどんな人材が必要なのか、どんな役割をもって、どんなスキルが必要となるのか、考える際のヒントになれば幸いです。

タレントマネジメントで人材像を策定する際に、0から考えていくのは大変な作業かと思います。もし、社内でDX人材を、タレントマネジメントで策定する際には、DSS-Pに記載されている人材像がヒントになるので、参考にしてみてください。

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